JSTからNEDOへ移管される全固体電池の研究成果とは

2018年7月3日、科学技術振興機構(JST)は、全固体電池の研究成果の一部を新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)へ移管すると発表しました。

移管される研究内容の詳細を調べてみました。

結果次の研究成果が移管される可能性が高いことがわかりました。

  • バインダーレス・シート型硫化物全固体電池
  • リチウム塩を含むLiS系正極材料
  • ナノ結晶構造をもつガラス固体電解質

プロジェクトの関係

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DENDEN

まずは関連するプロジェクトの関係を整理します

日経×TECHの記事では文部科学省、経済産業省、JST、NEDO、ALCA、SPRINGなど多くの組織やプロジェクトが出てきます。それぞれの関係を図にまとめました。黄色の矢印が今回発表された研究移管を表しています。

JSTからNEDOへの全固体電池研究成果一部移管に関する組織とプロジェクト

JSTからNEDOへの全固体電池研究成果一部移管に関する組織とプロジェクト

e-chan
Eちゃん

左側の文部科学省グループと右側の経済産業省グループに分かれているんだね

今回発表されたのはJSTの「無機固体電界質を用いた全固体リチウム2次電池の創出」プロジェクトからNEDOの「先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)」への移管です。それぞれのプロジェクトの概要は次の通りです。

特別重点技術領域「次世代蓄電池」研究開発プロジェクトと先進・革新蓄電池材料評価技術開発の概要

特別重点技術領域「次世代蓄電池」研究開発プロジェクトと先進・革新蓄電池材料評価技術開発の概要

 

では二つのプロジェクトにはどのような違いがあるのでしょうか。まずJSTとNEDOはどのような組織なのか見ていきましょう。JSTとNEDOは、どちらも国から示される目標や指標に沿って研究開発事業をおこなう国立研究法人です。

 

JSTとNEDOでは管轄する省庁が異なります。JSTは文部科学省から、NEDOは経済産業省から中長期目標を受けて事業計画が立てられています。それぞれの中長期目標、中長期計画は次のサイトで確認できます。

 

e-chan
Eちゃん

JSTやNEDOの目標を読んでもイマイチよくわからないね

ではプロジェクトの目標を比較してみましょう。

次世代蓄電池 ALCA-SPRINGの概要

(中略)

現行のリチウムイオン電池の次世代型となる高容量蓄電池の研究開発を加速する事を目的に、従来の蓄電池の性能を凌駕する革新的な蓄電池の創製を目指し、実用化の基礎・基盤研究を加速するためのプロジェクト研究を推進します。

 引用  次世代蓄電池 ALCA-SPRING の概要|ALCA-SPRING

 

移管先 NEDOのプロジェクト

先進・革新蓄電池材料評価技術開発

事業・プロジェクト概要

本事業においては、先進リチウムイオン電池や革新型電池の技術進展に合わせて、産業界の共通指標として機能する材料評価技術(標準電池モデルの仕様、作製法、性能評価条件・手順等)を開発し、国内材料メーカからの迅速な新材料提案や国内蓄電池メーカの開発効率の向上を図ります。

 引用  先進・革新蓄電池材料評価技術開発 事業・プロジェクト概要|NEDO

 

プロジェクト概要を見比べるとALCA-SPRINGでは「基礎・基盤研究」、先進・革新蓄電池材料評価技術開発では「産業界の共通指標として機能する材料評価技術」というキーワードが使われています。文部科学省から目標を受けているJSTは基礎研究、経済産業省から目標を受けているNEDOは産業界での価値に重きを置いていることが分かります。

移管される研究内容

それでは具体的にどのような研究が移管されるのでしょうか。日経×TECHの記事をもう一度みてみましょう。

今回、移管対象になった研究は2010年(平成25年度)に2期10年の予定でスタートした「先端的低炭素化技術開発(ALCA)」の特別重点技術領域「次世代蓄電池」(ALCA-SPRING)研究開発プロジェクトの一部で、大阪府立大学の辰巳砂昌弘教授がチームリーダーを務めた「無機固体電界質を用いた全固体リチウム2次電池の創出」プロジェクトの成果などになる。
(中略)
大阪府大の辰巳砂教授のチームは現行のリチウムイオン電池の液体電解質と同等のイオン伝導性を持つ硫化物系固体電解質と、そのシート化技術・シート化電極の作製プロセスなどの研究を担当した。金村教授によると、今回の研究移管により、「関連する研究者10数人がNEDOの技術開発プロジェクトに移籍した」という。

 引用  次世代全固体電池開発で文科と経産が連携、JSTプロジェクトの一部成果をNEDOに移管|2018年7月5日|日経×TECH

ここから研究内容について分かるのは次の2点です。この情報もとに今回移管される可能性がある研究成果について紹介していきます。

  1. 移管されるのは大阪府立大学の辰巳砂昌弘教授がチームリーダーを務めた「無機固体電界質を用いた全固体リチウム2次電池の創出」プロジェクトの成果など
  2. 辰巳砂教授のチームは現行のリチウムイオン電池の液体電解質と同等のイオン伝導性を持つ硫化物系固体電解質と、そのシート化技術・シート化電極の作製プロセスなどの研究を担当

 

ALCA-SPRING 研究成果

まずは「無機固体電解質を用いた全固体リチウム2次電池の創出」プロジェクトのwebサイト内で研究成果を紹介するページを確認してみましょう。

【無機固体電解質を用いた全固体リチウム2次電池の創出】研究成果

しかし2018年7月14日時点で、【論文発表】は2014年の1件、【学会発表】は2013~2014年の19件しか記載されていません。

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最近の研究成果は載っていないんだね

プロジェクトは2010~2014年が第1期、2015~2020年が第2期と分かれているので、第1期が終わってからサイトが更新されていないのでしょうね。

それではより上位のプロジェクトであるALCA-SPRINGのサイトを見てみましょう。

ここには2018年の研究成果まで記載されていますよ。

【ALCA-SPRING】次世代蓄電池 ALCA-SPRING の研究成果

そのなかで辰巳砂教授のチームの成果を紹介していきます。

1.バインダーレス・シート型全固体電池

まずはシート型全固体電池について。

日経×TECHの記事で”シート化技術・シート化電極の作製プロセスなどの研究”と書いてある研究です。

この技術については2017年の日本セラミックス協会-第30回秋季シンポジウムで下の2件が報告されています。

発表者に辰巳砂教授の名前はありませんが、作田敦助教は辰巳砂教授と同じ無機化学研究グループに所属しているので、辰巳砂教授のチームの研究成果とみて良いでしょう。

大阪府立大学 無機化学研究グループ 構成メンバー

 

 引用  【ALCA-SPRING】学会発表「日本セラミックス協会-第30回秋季シンポジウム」(2017/9/19-21)

【発表タイトル】各種ポリプロピレンカーボネートが正極シート強度およびバインダーレス・シート型硫化物全固体電池の性能に及ぼす影響
【研究機関】大阪産業技術研究所、大阪府立大学、豊橋技術科学大学
【発表者】山本真理、寺内義弘、作田敦、池田慎吾、小林靖之、松田厚範、高橋雅也
【学会】日本セラミックス協会-第30回秋季シンポジウム
【開催地】神戸
【講演日】2017/9/19
【講演番号】1PK07

 

【発表タイトル】液相振盪法による硫化物固体電解質を用いたバインダーレス・シート型全固体電池の高エネルギー密度化
【研究機関】大阪産業技術研究所、奈良先端科学大学院大学、豊橋技術科学大学、大阪府立大学
【発表者】高橋雅也、山本真理、寺内義弘、池田慎吾、小林靖之、松田厚範、作田敦
【学会】日本セラミックス協会-第30回秋季シンポジウム
【開催地】神戸
【講演日】2017/9/19
【講演番号】1PK06

 

しかし残念ながら発表内容についてはわかりません。

そこで全固体電池のシート化技術について検索してみるといくつかの資料がみつかりました。

 

東レリサーチセンター The TRC NEWs

東レリサーチセンターが発行しているThe TRC News、2017年4月と2018年6月に固体電池の内容を載せています。

シート型電池の出力が2017年の150Wh/kgから2018年の200Wh/kgへと改良されています。

 

2016年4月からの硫化物サブチームの体制では、複合体を作ってシート化して電池にしていくということで、乾式、湿式両方の活物質と電解質の複合化プロセス、およびシート化という観点での検討を進めており、2013年スタート時にはほとんど出力がとれなかったシート電池の出力が150Wh/kgを超えるまでになっている。現在、単なる情報交換だけではなく、試料も含めてLIBTECに技術移転をしている。

 引用  【東レリサーチセンター】2017年4月1日 The TRC NEWs JST ALCA-SPRING および物質・材料研究機構における次世代蓄電池研究

 

JST-ALCA-SPRINGの話として、固体電解質シートについて触れておきたい。国立研究開発法人産業技術研究所や地方独立行政法人大阪産業技術研究所が、非常に薄いポリイミド埋め込み型の固体電解質シートを作製し、これをバインダーレスの電極と積層して、電池にする取り組みを行っている(図20)。例えば、NMCとカーボンから構成された数cm角の電池は、現時点でエネルギー密度が200Wh/kg程度まで上がってきている。シート形状なので、切断などの加工も可能である(図21)。

 引用  【東レリサーチセンター】2018年6月1日 The TRC NEWs 無機固体電解質を用いた全固体リチウム二次電池の開発

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引用元のレポートの7ページ図21、22には、関連組織の一覧や試作した電池の写真が載っているね

論文

バインダーレスシート型電池に関する論文も公開されています。

日本セラミックス協会での発表者でもある山本真理氏が筆頭著者になっています。

【Scientific Reports】2018年6月19日 Binder-free sheet-type all-solid-state batteries with enhanced rate capabilities and high energy densities

 

【JSC-Japan】2017年2月15日 Fabrication of composite positive electrode sheet with high active material content and effect of fabrication pressure for all-solid-state battery

 

2.リチウム塩を含むLi2S系正極材料

【ALCA-SPRING 研究成果】2017年9月4日 高容量および長寿命を兼ね備えたリチウム-硫黄二次電池用正極の開発に成功

【JSTプレスリリース】2017年5月24日 高容量および長寿命を兼ね備えたリチウム-硫黄二次電池用正極の開発に成功 ~リチウムイオン電池を凌駕する次世代型蓄電池の実現に期待~

【Wiley Online Library】2017年5月24日 Li2S‐Based Solid Solutions as Positive Electrodes with Full Utilization and Superlong Cycle Life in All‐Solid‐State Li/S Batteries

 

辰巳砂教授のチームの成果、二つ目は2017年5月24日にプレスリリースされたLi2S正極に関するものです。

従来の電解液を用いた電池の正極にSまたはLi2Sを使用すると、充放電時に多硫化リチウム(Li2Sx)が溶出してしまうことが知られています。

この反応が起こると電池の容量が劣化してしまいます。

また正極のSまたはLi2Sは絶縁体なので理論的に予測される電池容量を実現できないという課題もありました。

この研究では電解液の代わりに硫化物固体電解質を用いてLi2Sxの溶出を防いでいます。

また正極をLiSとハロゲン化リチウム(LiCl、LiBr、LiI)から構成されるLiSベース固溶体にすることで、一般的なLiS正極と比較して2倍以上の容量が得られたというものです。

JST プレスリリース 電解液リチウムイオン電池とLi2S電解質全固体リチウムイオン電池

図1 正極、負極、有機電解液から構成された従来のリチウム-硫黄電池(左図)とLi2Sベース固溶体と硫化物固体電解質を組み合わせた正極を評価した全固体電池(右図)

 引用  【JSTプレスリリース】2017年5月24日 高容量および長寿命を兼ね備えたリチウム-硫黄二次電池用正極の開発に成功 ~リチウムイオン電池を凌駕する次世代型蓄電池の実現に期待~

 

この研究成果は次のように特許出願もされています。

【国際公開番号】WO2016/063877

【国際出願番号】PCT/JP2015/079589

【出願番号】特願2016-555235

【出願人】国立研究開発法人科学技術振興機構

【発明者】林 晃敏、辰巳砂 昌弘

 

3.ナノ結晶構造をもつガラス固体電解質

【ALCA-SPRING 研究成果】2017年9月4日 高イオン伝導度を示すガラス固体電解質の非結晶状態を解明 

【JSTプレスリリース】2017年6月23日 全固体電池実現に向けた研究開発への応用に期待 高イオン伝導度を示すガラス固体電解質の非結晶状態を解明

【Scientific Reports】2017年6月23日 Direct observation of a non-crystalline state of Li2S–P2S5 solid electrolytes

3つ目はLi2S・P2S5のナノスケールの構造に関する研究です。以前からLi2S・P2S5ガラス電解質をガラスセラミックス化させるとイオン伝導度が向上することは知られていましたが、その構造はよくわかっていませんでした。この研究では透過型電子顕微鏡(TEM)の暗視野法と高分解能電子顕微鏡によって、ガラス電解質、ガラスセラミックス、それぞれの微細な構造を明らかにしました。

ガラス状態では数ナノメートルの結晶が存在している一方で、熱処理後のガラスセラミックスはナノ結晶の集合体になっており、これが高いイオン電導度を発現するポイントだと考えられます。今後は充放電サイクルに伴う構造の変化や電極-電解質の界面の観察を続けていくと発表されています。

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